まずは、予備知識を。
今の日本のテレビドラマなどは、ビデオで作られています。
昔は、16mm/35mmフィルムで撮影されていました。
ビデオとフィルムの違いを簡単に(乱暴に)説明すると、
ビデオ
電子的な小さな点を並べて映像を作っている。点は整列しています。電子的に作られているため、全てが正確に均一です。一秒間に約30コマ。フィルム
エマルジョンと呼ばれる細かい粒子が感光(光の色に反応)して映像を作っている。粒子はテレビのように整列はしていません。現在のコマと次のコマでは、当然粒子の位置は同じになりませんので、一こまずつが生きています。一秒間に24コマ。
映画フィルムはおおざっぱに言うと、エマルジョンの粒子が大きければ荒々しい映像になり、小さければ艶やかでしっとりした映像になります。一般的に、感度が高い(暗くても撮影できる:ISO400とか)と粒子が大きく、低い(明るいところ向き:ISO100とか)と粒子が小さくなります。
この粒子の違いは、映像を見る側にも別々の感情を与えるため、映画監督と撮影監督は映画にふさわしい粒子の大きさを考えて、フィルムの種類も演出に含めます。
ビデオでは、この粒子の感じをデジタル処理で後付けできますが、ハリウッド映画/ドラマは今もほとんどフィルムです。
テレビで見ている“映画(DVD等)”は、フィルムで撮られたものであればテレシネと呼ばれる方法で、秒間24コマと30コマの辻褄を合わせながらビデオに取りこみます。そこではじめてフィルムをテレビで見られるようになります。
古い映画をテレビで見るとフリッカーと呼ばれるちらつきが出るのは、この辻褄あわせの結果です。
意識して見るとよく分かりますが、ビデオ映像とフィルム映像では出てくる映像に大きな違いがあります。僕がフィルム好きという偏見も含めて。(笑)
ビデオ映像
家庭用ビデオカメラで見慣れた、明るくてパリパリっとした映像。暗いところから明るいところまでの再現域が広いので、余計なところまで写ってしまう。黒が締まらず軽い感じ。フィルム映像
しっとりとした感じで、特に肌のトーンが優しく出ます。艶っぽいです。もちろん、演出によっては荒々しくもなります。明るいところから暗いところまでの再現域が狭いので、良い意味で写らない所が出てくる。発色が鮮やかで重みがある。
予備知識がついたところで・・。
僕は最近のビデオ映像に見慣れてしまうことを心配しています。
例えば戦争ドラマ。
役者達は今時の整った顔をしているわけです。どこか悲壮感にかけるというか、アニメっぽい綺麗さを持っています。
そこに、いかにもという感じでスミをつけて汚れ感を出します。本当であれば、戦時中の物資不足をイメージに入れて、もう少し疲れた感じの肌にしたいところですが、エステバリバリの卵のような肌に汚れメイクをするため、現実の凄味がありません。もちろん、衣服も着慣れた感じになるまで実際使い込んで撮影したほうが良いものが撮れるはずです。
「ただ頬とおでこをちょっと汚しておけばよい」
という安易さはいただけません。
そして、さらにそれをビデオで撮る。現実はドンドン薄められていきます。
映像から感情を観客に移すのは、役者の演技力だけでは不十分です。セットや、メイク、撮影などの世界観を作り出して、全体として初めて観客に訴えるような映像ができます。
えらそうに言っている僕には作れませんけどね。(笑)
それに予算という最大の障壁もあるので、一概に手抜きとは言えません。
フィルムはお金がかかりますから。
一方で、フィルムはこの逆です。
赤黒い血のぬめりや、埃やススにまみれて逃げまどう人々の感じも現実味という観点からすると今のところフィルムの表現力が格段に上です。
ビデオのような小綺麗な映像に慣れすぎると、現実がとても軽く見えてきます。
暴力描写もビデオ画像からは、暴力を受けている人の痛みや苦しみが伝わりにくいので、ただ
行為を見る
という状態になってしまいます。どこか他人事のような冷めた雰囲気です。
映像の綺麗さ(鮮明さと置き換えた方が良いかもしれません)は、暴力を弱く伝えます。
映像が最近の子供達の暴力を助長していると断言するわけではありませんが、映像の中で語られる行為が重く伝わるか、軽く伝わるか?その違いでその“行為”に対して持つ感情が変わるということに疑う理由は見つかりません。
子供が取っつきやすくするために戦争をアニメで見せようとか、イラストで見せようという試みにも僕は反対です。良い意味で洗練されていない昔の映画を見せたほうが、きっと子供達の心を打つはずです。
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